PRODUCT >> 2015年 前期 >> 少女神域∽少女天獄
STORY

主人公・稜祁恂 (たかぎ しゅん) は幼い頃から、いつも故郷を取り囲む石壁の向こう側を思い、町に敷かれた一本の線路の先にあるトンネルの先を夢見てきた。
何度か確かめる機会はあった。 しかし、いつも病気や家庭の事情で妨げられ、故郷から一歩も羽ばたけずにいた。そしてあまり多くを語らない稜祁恂が、ついに不満の言葉を口にし始めた時――。三年間在籍した惺鳳館学園を卒業して、進学を決めた彼は町を出ることになった。 いともあっさりと。 彼自身が驚いたほどに
そして―― 新しい一年が瞬く間に過ぎ去り、彼が二度目の春を迎えようとした時、母から一度帰ってくるように電話があった。理由は、子供の頃からずっと参加してきた故郷の祭り―― 『星鴻祭』。代々、彼の家は祭りのための道具を管理している。 さらに今年の 『星鴻祭』 は例年とは異なり、特別な形式らしく規模も大きい。
詳しく聞けば、彼の妹の祥那も祭りの重要な役――神楽を舞う巫女の一人として選ばれたらしい。
そして妹と同じよう巫女として選ばれた幼なじみ・澳城迪希。「今年、巫女さんでがんばっちゃうから、ぜーったい一緒に帰りましょうね!」
下宿先の面倒を見てくれた彼女の有無を言わさない笑顔に、彼は快い返事を返すしかなかった。
――故郷へと戻る道の上、見覚えのある壁面の傷が過ぎた。 もうすぐトンネルは終わってしまう。 そしてふと彼は、故郷へ帰ることへの自分自身の理由がないことに思い至り、不安を感じ始める。トンネルの先には、何もなかった。 石壁の向こう側には、何もなかった。ただ、自分の新しい生活が始まり、それがずっと続いていくことに驚き、何かを失う感覚を味わった。町を出た事実だけが手元に残っただけ。 ……それでは町に戻ること、自分の生まれ育った町―― あれだけ羽ばたいて飛び出したかった場所は、一体どんな意味があったのか?
自分なりに答えを出そうとして―― 急に車内に光が差し、稜祁恂は世界の全てが明るくなったように感じる。「恂ちゃん、久しぶりに戻ってきたね」
不意に、昔から変わらぬ、幼なじみの優しげな声が聞こえた。彼は、その声がどこか暗い場所へ落ちていこうとした自分の心を救ってくれたような気がした。
――彼らの故郷・佳城市を走る京海線の列車が駅に着くまで、もう十分と掛からない距離にあった。