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ヨーロッパの小国・ヒューガルデン公国。
歴史と文化、そして豊かな資源に恵まれたその国は、国際的に見て小さいながらも無視できない、言わば “小さな大国”。
その国の要人が外国を訪れるともなれば、それは外交上の大きなイベントであり、ましてや病気がちのヒューガルデン公に代わってやってくるのが美貌の姫だと知れば、テレビもラジオも新聞も一般人も、否が応でも盛り上がらないわけがなかった。
「懐かしいな」 バイトをしながら学生生活を送る苦学生・白州響は、そんなお姫様の来日を報じるテレビニュースを見ながら、ぼんやりと独り過ごした。
今でこそこんな貧乏生活を送っているものの、子供の頃は裕福な家に生まれ育った響。
彼はずっとずっと小さい頃、父の仕事の関係でヒューガルデン公国を訪れ、今、テレビで笑顔を振りまいているお姫様 ペシュリーゼ・ランピック・デ・コーニング と共に過ごしていたのだ。
きっと彼女は覚えていないだろうけど、それは響にとってとてもとても大切な思い出だった。
とはいえ、思い出だけではお腹は膨れない。お腹を膨らますためには、お金を稼がないといけない。
目の前の現実を見据えながら、響きがバイトに出掛けようとしたその時、やってきたのは突然の来訪者。
それは……
「お久しぶりですね、ヒビキ。 私との約束、果たしてもらいに来ましたよ?」
テレビの中と同じ笑みを浮かべる、“オヒメサマ” の姿だった。
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