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昔の話だ。 丘の上、学校の裏手に大きな樹があった。
そこで不思議な少女と出会った。 その少女は自分のことを "いぶき" と言った。
枝から落ちそうになった俺を、まるで空を飛ぶような身の軽さで助けてくれた。
その後、仲良くなった俺たちは学校の裏庭で度々出会うようになり、幼いながらもいつしかお互いに惹かれ合っていった。
そんなある日、ちょっとした事件が起きた。
都市計画に沿って大規模な再開発が行われることになり、俺も含め周辺に住んでいた人々は皆、住み慣れた土地から離れることを余儀なくされてしまった。
引越しを終え、新しい土地に落ち着いた俺は、少女の行方を捜した。
しかし、再び会いたいという願いは、叶えられることは無かった。
……時は流れ、そんな過去の出来事をすっかり忘れてしまった頃、通学のため俺は懐かしい町へと戻った。
かつての幼なじみたちと集まり、思い出の場所を訪ねて回っていた時だった。
学校の跡地、校舎の脇にあった巨木が姿を消していた。
再開発のため切り倒されたのだろうか。 満たされない、奇妙な感情が俺たちの胸に渦巻く。
――翌朝。
丘の上、かつて通っていた学校の脇に生えていたはずの巨木が、そこに生えていた。
そして、その巨木の枝の上には、一人の少女の姿があった。
俺の姿を認め、少女はつぶやいた。
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