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夏。一年でもっとも生命力あふれる、魅力的な季節…………。だが、俺は夏が大嫌いだ。理由は簡単、暑いから。今年もやっぱり夏は暑かった。今どきの家庭にあるまじく、うちには一台のエアコンもない。毎年この時期になると、その事に思い当たって愕然とする。
「あんた、ちょっとアルバイトしなさいよ」
半泣きの俺の言葉など耳に入っていないかのように、おふくろが唐突にいいだした。
「田舎の良月さんのところで、泊まりがけのバイトを頼みたいらしいんだよね」
数日後、バイト先の村に着いた俺を待っていたのは、超巨大な豪邸だった。もちろん全館エアコンつき。しかし、てっきり住み込みだと思っていたのにバイトの条件は通いであること。ガックリと肩を落とし、住み込み先の良月家へと向かう。今の俺には、このド田舎から逃げ出すだけの旅費もなかった。ここで生きてゆくためには、国枝家でバイトするしかない。
「はあ……」
教えられた一軒家に行き、玄関の鍵を開けようとする。ところが、鍵は開いていた。疑問に感じつつ、扉を開ける。するとそこには、倒れている人間の姿があった。 「うわあっ!?」
思わず悲鳴をあげる。俺の大声に反応してか、グッタリした身体が動いた。小さな丸い頭が、ぎこちなく持ち上がって、俺を見る。ごしごしと目をこすりながら起きあがり、そこでハッと我に返ったようだった。起き上がった女の子は、俺の胸までしか届かないほど小柄だ。その身体を滑稽なほどジタバタさせながら、
「うきゃーっ! ハワイ旅行ーっ!」
半ベソでわめいている。置き去りにされたんだろうか。事情を鑑みるに、良月家の人間には違いなさそうだが……。
これが、ちょっと浮世離れした一夏の始まりだった。
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