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学校の春休み。主人公・火村一平は、故郷である山梨の山奥に向かっていた。一平の実家は、そこで小さな温泉旅館『ほむら』を営んでいるのだ。
『出来れば卒業までは、帰りたくなかったんだけどな……』
しかし戻ってきた一平を見るなり、母親である火村杏はまなじりを決して彼に詰め寄る。
『……どうして帰ってきたんだい!? さっさと東京に戻りな!』
『ど、どうしてって言われても、了子さんが来てくれって言うから……』
一平を呼んだのは、叔母である音羽了子だった。
何でも大変なことが起きたから、至急帰ってきて欲しいと言うことだったが、杏の必死な様子からもそれは伺えた。『大変なこと』と言うのは、借金だった。十年近く前、一平の父親は、従業員の若い女に手をつけ、駆け落ち同然に蒸発した。そのごくつぶしの父親が作ったと言う、4千万円もの借金。杏は自らのあずかり知らぬところで、その保証人にされていたのだ。
このままでは、曾祖父の代から守ってきた旅館ほむらの全ての権利を、手放さざるを得なくなる。しかし、債権者の金貸し、冨士田鋭一は、ある条件を呑めば、これまで通り旅館の経営を続けても良いと言う。その条件とは……杏と了子がその熟れた肉体で宿泊客を饗応する売春宿に、旅館ほむらを作りかえることだった。一平にとって、生涯忘れることの出来ない春休みが、始まろうとしている───。
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